薬剤費のムダ削減「節薬バッグ」活用のすすめ

患者が飲み忘れなどで服用しなかった残薬を活用して、医療費のムダを減らす「節薬バッグ運動」が各地に広がっている。

薬局などで患者に回収袋を配り、自宅で余った薬の持参を促す取り組みで、薬剤師による適切な服薬の指導を受ける機会にもなる。

全国に波及すれば年間3300億円の薬剤費を削減できるという推計もあり、さらなる普及に期待がかかる。

墨田区にある「すずかぜ薬局」の事例

病院で診察後に薬局を訪れた50代の主婦は、医師の処方箋と一緒に残薬の名前と数量を書いたメモを薬剤師に手渡した。

15年前から脳血管系の疾患を抱え、それ以来、毎日5~6種類の薬を飲み続けている。朝が4種類、夜が6種類。

朝早く出掛けなければいけない時に飲み忘れたり、体調によっては「今日は飲まなくても良いかな」と、薬を飲まないこともあるという。

1回の診察で多種類の薬をまとめて処方してもらうため、自然と残薬も多くなる。

この日は医師から6種類の薬を70日分ずつ処方されたが、調整の結果、4種類について15~54日分に減らすことができたという。

残薬調整は薬代の節約になる上、加入する健康保険組合から医療費削減に協力を求める通知が届いたことから、積極的に行うようになった。

患者の窓口負担は1~3割なので、医療費全体では窓口で支払う額の3倍から10倍の額を節約できることになる。

薬局では患者に薬を処方する際、残薬の持参を促すチラシを配布。

希望者には専用の節薬バッグも渡している。

チラシには薬の名前と残っている数を書く欄があり、次回の来局時に書き込んで持参すれば新たに処方する薬の量を調整する。

多い日には7、8人の残薬調整を行う。

葛飾区にある「オゾン薬局」の事例

「飲み残したお薬についてお気軽にご相談ください」。

東京都葛飾区の「オゾン薬局」の窓口には、こんな文言の入った大きなポスターが貼られている。

薬剤師は患者に自宅で余った薬の持参を呼びかけ、残薬を受け取るための布製バッグを無料で配布。

回収した残薬が新たに処方された薬と同じだった場合に、薬剤師が医師の承認を得て量を減らす調整をしている。

この取り組みは葛飾区薬剤師会が2019年7月から区と協力して始めた「残薬調整支援事業」で、区内の会員薬局の半数以上にあたる約90軒が参加。

同薬剤師会による同年11月までの集計では、残薬で1カ月あたり40万~50万円程度の薬剤費を削減できた。

膨張を続ける医療費

厚生労働省によると、2017年度の国民医療費は約43兆円で、このうち薬剤費を含む薬局調剤費は2割近くにあたる7.8兆円を占める。

過去15年で倍増しており、対策が急務となっている。

厚労省は2012年、薬剤師が受け取る調剤報酬を改定し、「薬剤服用歴管理指導料」として薬の飲み残しの有無を確かめることを新たに盛り込んだ。

医療費の削減が期待されたが、半年後のファイザー日本法人の調査によると、残薬の確認をしてもらったと回答した患者は24%と低調だった。

節約バッグで医療費削減

九州大大学院の島添隆雄・准教授(医療薬学) の分析では、全国に節薬バッグによる運動が広がれば、3300億円の薬剤費を減らすことができるという。

福岡市の調査では8割ほどの残薬が再利用でき、患者自身の支払い負担が減るだけでなく、医療費の削減に貢献しているという意識も浸透していると手応えを口にする。

一方、残薬を薬局に持ち込んでも保管状況が悪ければ廃棄せざるを得ない。

薬は湿気や高温の影響を受けやすく、使用期限内であっても変質する危険性がある。

日本薬剤師会の安部好弘副会長は「薬の成分が変わって体に害を与える毒性を持つこともある。開封前の薬でも劣化する可能性もある。迷ったら服用の自己判断は避け、薬剤師に相談してほしい」と呼びかけている。

無駄のない最適な薬物療法の実現に向けて

この節薬バッグ運動の最終目標は、患者、処方医、薬剤師の3者の連携を密にし、薬剤の適正使用を推進することである。

患者の薬物療法に対する意識と服薬アドヒアランスを高め、その結果として残薬、破棄薬の発生を防ぎ、無駄のない最適な薬物療法を実現することである。

そのためにも、課題の克服に取り組み、当運動の規模拡大と定着、継続が必要と考える。